J2昇格レースが白熱、トップ2枠巡る争いを展望 町田の首位陥落も?…東京VがJ1級タレント補強で猛追の気配【コラム】
J2リーグは残り8節、自動昇格2枠を巡る白熱の構図を展望
“魔境”とも呼ばれるJ2リーグは残り8節となり、昇格争いはヒートアップしている。今シーズンはリーグ戦の3〜6位の4クラブがトーナメントのプレーオフを戦い、勝ち上がったクラブはJ1との入れ替え戦なしに、3つ目の枠として昇格できる。そこを目指す争いも熱いが、今回は自動昇格の2枠に入る可能性に絞って焦点を当てたい。
ここで改めて言うまでもなく、最も有利なポジションにいるのは勝ち点67を獲得しているFC町田ゼルビアだ。2位のジュビロ磐田に勝ち点6差を付けており、しかも悪天候で延期になった第26節のブラウブリッツ秋田戦が未消化であるため最大9の勝ち点差と言い換えることもできる。ただ、前節は磐田と3位の清水エスパルスが揃って勝ち3を積み上げた一方で、ホームで栃木SCに0-1と敗れたことで、少し状況が変わってきた。
クラブとしてJ1の昇格経験がなく、ここから未知の世界になってくるというのは高校サッカー屈指の名将として知られた黒田剛監督が率いていようと変わらない。さらに18得点のFWエリキがシーズン絶望の怪我を負ってしまった。第2登録期間のギリギリで獲得したFWアデミウソンも、ここまでのプレーを見る限りすぐにフィットするのは難しいだろう。
キーマンはU-22日本代表のFW藤尾翔太だ。前線での力強さが増した22歳は現在6ゴールだが、最低でも二桁、できれば1試合1得点ぐらいのペースで積み重ねていければ、失点数が清水と並ぶ27と1試合平均は1.0を大きく下回るだけに、かなり安定して勝ち点3を積める。さらに同じくU-22代表で、伸び盛りのFW平河悠はここまでの5得点3アシストを上回る結果を出せれば、藤尾と合わせて攻撃を活性化させていく必要がある。
その町田をここから逆転できる可能性があるのは磐田、清水に4位の東京ヴェルディを加えた3クラブまでだろう。磐田はご存知のとおり、夏の補強ができないなかで、高校生のFW後藤啓介や高卒2年目のMF古川陽介など、若手の成長がプラス材料になっている。またFWジャーメイン良の覚醒的なゴールラッシュも見逃せないトピックだが、町田を逆転しての優勝まで考えると、コンディション不良でここ数試合を欠場しているFWファビアン・ゴンザレスの奮起など、さらなる後押しが必要かもしれない。
3位の清水は監督交代など苦しい時期を経験してきたが、12試合負けがなく、この期間に秋葉忠宏監督が何度「ディス・イズ・フットボール」を叫んだか分からない。しかも、7月9日の大分トリニータ戦(2-1)では、当時まだ清水より上の順位だった相手にアウェーで勝利するなど、上位対決をことごとく制して現在の3位まで這い上がってきた。攻撃の中心は間違いなく元日本代表のMF乾貴士で、8得点7アシストという数字以上の存在感がある。
さらに長期離脱から復調してきた左サイドバック(SB)山原怜音が攻撃で躍動すれば、欧州挑戦から戻った右SB原輝綺が攻守で要所を締める。町田も含めてチームの総合値はJ2ナンバーワンだろう。ただ、チームというのは生き物でもあるので、ここから4節後にある磐田とのダービーが1つの山場になることは間違いない。トラップがあるとすれば残留争いの渦中にあるクラブとの試合が続く終盤戦だ。特に現在20位ながら、天皇杯で準決勝まで躍進しているロアッソ熊本との第40節はホームながら要注意だ。
4位東京Vは夏の移籍でMFバスケス・バイロンを高校時代の恩師・黒田監督がいる町田に引き抜かれたが、J1鹿島アントラーズから育成型期限付き移籍により復帰したFW染野唯月をはじめ、横浜FCから加入のMF長谷川竜也、セレッソ大阪から加わったMF中原輝という言わばJ1クラスの選手たちが前線のトリオを形成し、後半戦の推進力になっている。
もともと中盤からうしろは百戦錬磨の城福浩監督の指導により安定しており、現在の攻守バランスは4チームの中でも特筆に値する。ただ、ここから自動昇格は難しくても、プレーオフを狙える10位ザスパクサツ群馬、9位の大分、8位のジェフユナイテッド千葉との対戦が続くため、油断はならない。現在2位の磐田との大一番となる第42節を有利な状態で迎えられるかはこれらの戦いをどう乗り切るかによるだろう。
長崎&甲府は昇格の2枠目に入る可能性十分
首位と勝ち点13差で5位のV・ファーレン長崎と15差のヴァンフォーレ甲府は町田を逆転するまでは極めて難しいものの、磐田や清水を追い越して昇格の2枠目に入る可能性はある。長崎はFWフアンマ・デルガドがすでに21ゴールを挙げており、得点ランク2位エリキの離脱もあって“タイトル奪取”は確実となってきている。そのフアンマに対するマークは厳しくなっているが、大学を中退して今年加入した195センチの新星FWジョップ・セリンサリウが、徐々に出番を増やしながら3得点を挙げており、終盤戦で猛チャージのキーマンになりそうだ。
9月15日の“フライデーナイトマッチ”で東京Vと引き分けた甲府はAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でアジアでの戦いが目前に控えている。しかも20日にアウェーで行われるメルボルン・シティ(オーストラリア)戦から中3日で清水戦(24日)を迎える。過酷なレギュレーションではあるが、前半戦にルヴァン杯と並行していた磐田や清水がそうだったように、そうした厳しい状況を乗り越えることで、チーム力が底上げされていくことになるかもしれない。
“逆転までは極めて難しい”と書いたが長崎は23日の第36節、甲府は第38節に町田戦がある、ここで長崎と甲府が意地を見せるのか、首位の町田が蹴散らすのかで、昇格争いが大きく変わり得る。長崎は前半戦の大一番となった6月11日の町田戦にアウェーで1-4の大敗を喫したが、全得点にエリキが絡んでおり、ホームの“リベンジマッチ”は違った構図になる。
一方の甲府は4月に行われたホームゲームで、FWピーター・ウタカの得点により1-0で勝利している。甲府と長崎は第39節で直接対決を迎えるが、そこが昇格争いに残るための“サバイバルマッチ”となるのかは今後の勝ち点の積み重ね次第だ。数字的には勝ち点51の7位ファジアーノ岡山、8位千葉、勝ち点50の大分にも自動昇格の可能性は残されるが、磐田、清水、東京Vの後半戦の勝率が高く、残り8試合で現在の勝ち点差を逆転するのは並大抵のことではない。
岡山にとって希望をつなぐ試合となるのが24日のホーム磐田戦。ただその前に11位モンテディオ山形とアウェーゲームがあり、ここで勝ち点3を獲得することで、自動昇格の可能性を残すことに加え、6位以内までが権利を得られる昇格プレーオフのライバルを突き放せるかという戦いにもなりそうだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。