名将グアルディオラのサッカーを機能させないお手本? バイエルン監督が見せた巧妙な戦術【コラム】

マンCのジョゼップ・グアルディオラ監督【写真:徳原隆元】
マンCのジョゼップ・グアルディオラ監督【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】1点ビハインドの後半にバイエルンが見せた戦いに注目

 振り返ってみれば、これまでジョゼップ・グアルディオラが指揮を執る姿をFCバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、そして今回のマンチェスター・シティと3つのクラブで見てきた。このスペイン人指揮官は記者会見の席上や試合前では、実に物静かな雰囲気に包まれている。カメラのファインダーの中で、俯き加減で何かを思案しているように難しい表情をしている場面を写真に収めたのも一度や二度ではない。

 しかし、試合では一度スイッチが入ると激しいジェスチャーを交えて選手たちへと指示を出す場面も見られる。試合とそれ以外とでは異なる顔を持った男だ。

 高度なチーム戦術を選手たちに課し、シティに悲願だったヨーロッパ王者の称号をもたらしたのをはじめ、これまで指揮を執ったチームで数々のタイトルを獲得してきたグアルディオラは言うまでもなく世界屈指の名将である。

 6万5049人の観衆で埋まった「Audi Football Summit」と銘打たれたバイエルン対シティの一戦は、2-1でプレミアリーグ王者の勝利に終わった。

 しかし、このヨーロッパをも制した王者に対してトーマス・トゥヘル率いるバイエルンは明確で有効な1つの対処方法を示した。その戦いぶりが表現されたのは0-1とリードを許して突入した後半だ。

 戦術家であるグアルディオラが作り上げるシティの攻撃パターンは、選手から選手へと素早くボールをつないで相手の守備網を崩し、得点源のアーリング・ブラウト・ハーランドがゴールへの総仕上げを行うスタイル。ここでバイエルンは最終ラインから中盤でボールを回すシティの選手たちを重厚な守備網を敷いて徹底的にマークする。一瞬の気の緩みも許されない高い集中力を必要とする展開をバイエルンは根気よく続け、後半から出場したハーランドとのホットラインを断ち切り得点を許さない。

 今回の来日でハーランドのプレーを初めて実際に見たのだが、彼はゴールをマークするだけでなく、大柄の身体を生かしてポストプレーも積極的に行うタイプの選手ではないことに気づいた。前線でくさびとなって攻撃全般をリードするというより、味方からの足元へのパスかスルーパスを受け、マークする相手DFを交わしてシュートを行うフィニッシャーに特化したプレーでチームの勝利に貢献している。

バイエルンを率いるトーマス・トゥヘル監督【写真:徳原隆元】
バイエルンを率いるトーマス・トゥヘル監督【写真:徳原隆元】

バイエルンに対処したマンCは2-1で勝利

 そうなると、このハーランドへのボールの供給を遮断すれば、失点の確率を下げることができる。後半の攻防はシティがボールをつないで攻め、バイエルンが前半を上回る高い守備への意識を持ってプレーし、敵をゴールへと近づけさせないという図式の時間がかなり続いた。この展開に入った試合は膠着状態となる。

 理論的にシティへの対処方法を見つけ出すことは、それほど難しいことではない。何より評価できるのは、その戦い方を実践する能力をバイエルンの選手たちが持っていたことだ。

 この対抗策が功を奏したバイエルンは劣勢となりながらもリズムを作り、後半36分には同点ゴールをマークする。後半に見せたドイツの絶対王者のスタイルはヨーロッパ覇者の、いやグアルディオラのサッカーを機能させない1つの戦術として有効なことが示されたのだった。

 ただ、対抗策を取られても簡単には屈しないのがまたグアルディオラのサッカーだった。シティは激しい守備に手こずりながらもそれに動じることなく、自分たちのスタイルをこれでもかと貫き通した結果、後半41分に決勝ゴールをマークする。

 相手が対抗策を示せば、それのさらに上を行く戦い方で対処する。名将同士が繰り広げるピッチでの駆け引きは果てしなく続く。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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