早稲田→卒業後にスペイン行き「就活も辞めて」 名門に即合格も…ピッチで衝撃「もう違う競技」

INAC神戸のMF山本摩也【写真:増田美咲】
INAC神戸のMF山本摩也【写真:増田美咲】

山本摩也は早稲田大卒業後にすぐスペインへ

 女子サッカーの未来を考える――。5年目を迎えたWEリーグと、FOOTBALL ZONEは共同企画「WE×ZONE ~わたしたちがサッカーを続ける理由~」で、日々奮闘する選手たちの半生に迫る。第3回はINAC神戸レオネッサのMF山本摩也。早稲田大学を卒業後、即スペインに渡って6年半プレーし、INAC神戸では4年目を迎える。明るくクレバーな32歳MFの連載第3回は、大卒で即海を渡ったスペイン挑戦について。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全5回の3回目)

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 人生を左右する決断に迷いはなかった。名門・十文字高校から一浪を経て強豪の早稲田大学へ進学。次なる舞台は国内最高峰、なでしこリーグ……ではなかった。未知の世界。あまりにも大きな挑戦は思いがけない出会いからスタートした。

「たまたま大学4年の夏にサッカー部OGの方が練習を見に来ていて。先輩は当時スペインで仕事をしていた。『進路決まった?』と聞かれて『まだ、全然決まってないです。海外でサッカーやりたいんですけど』と話したら『つなげられるよ』と言ってくれたんです。本当は国内で続けようと思っていて、なでしこリーグの練習参加も何クラブか行っていた。でも女子サッカーは狭い世界。もともと海外でプレーしたい思いはあった。『同じ日常が待っているな』と思って、先輩に『お願いします』と頼みました」

 先輩はすぐに行動してくれて、トライアル受験候補は4チームに上った。だがそこで1通の連絡が来た。「本当に行く?」。先輩の疑問も当然。世間の大学4年生は就職活動、山本は最後の大会のインカレに出場中。それでも、心は決まっていた。

「自分の頭の中ではもうスペインでサッカーをしていた。何も決まっていないし、練習参加するだけだったんですけど。就活も合同説明会に行ったけどすぐに辞めて、スペイン行きのチケットを取った」

 インカレ終了から3日後、即渡欧。両親にも事後報告だった。スペインへ渡ってトライアルの予定が詰まっていた。最初のチームはスペイン女子1部のバレンシア。4日間の練習参加のうち、2日目であっという間に合格を勝ち取った。

スペインで感じた衝撃を回顧【写真:増田美咲】
スペインで感じた衝撃を回顧【写真:増田美咲】

まさかの“1時”を勘違い「深夜なの!?」

「もう行きますと言って、すぐ決まった。その後3チームあったんですけど、もうバレンシアで2週間練習させてもらいました。一度帰国して、ビザや生活するのに準備を整えて、ビザが降りるのが1か月半かかると言われていたのに2週間で降りたので卒業式に出ずにスペインへ行きました」

 驚くほどのスピードで挑戦の扉が開いた22歳の春。強行渡航で言語の勉強もままならなかった。英語もスペイン語も「全く分からなかった」。もちろん日本人は1人だったが、山本は「何とかなるでしょと思っていましたね」という。

「マンツーマンの語学学校へ練習前に2、3か月通っていました。でもそれよりも『とりあえず懐に入っちゃおう』と思って、チームの中心選手に可愛がってもらいにいった。日本人がいないのが自分の中ではめちゃくちゃ良かったんですよね。自分のことは誰も知らないし、そういう環境に飛び込む楽しさがあった」

 クラブが所有するマンションで共同生活。自身が編み出した“戦略”で適応を早め、すぐにサッカーと向き合えた。だが、ここからが驚きの連続。最初は“移動”だ。「バスで14時間とかありましたね」。ある日、チームから出発時間を伝えられた。「ワン、ワン」。山本は午後1時だと理解した。試合に向けて睡眠を取っていると、周囲がガサゴソと動き出した。

「みんな出る準備していて『え?』と思ったら『もう1時だから出るよ!』と言われて。『深夜の1時なの!?』と。でもそのキツささえも新鮮で楽しんでいましたね」

 ピッチ上でも驚いた。日本で思い描いていたスペインサッカーはパスをつないで崩していくバルセロナや代表のようなスタイル。ここにもギャップがあった。

「もう全然違っていて、蹴るし、ぶつかるし、荒いし、想像と違っていた。でも日本でやっていたサッカーとは別物で。日本は試合の流れがマラソンみたい。ずっとみんな全力で、同じテンションでやる。でもスペインは波があって、すごくスピーディーな時もあるし、テンポがゆったりの時もあるし、ファウルで止めたり、止められたり、試合の流れが途切れ途切れになって考え方も違う。もう違う競技だと思っていました」

スペインで痛感した「街ごとサッカーの戦い」

 最初は戸惑った。言語の壁に阻まれ、コミュニケーション不足でチームメイトにミスを押し付けられたこともあった。「ごめん、ごめん」。関係を構築しないと――。すぐに謝った。この判断が間違っていたと気付いた。

「言い返せなくてナメられていた。まずは言い返す言葉を覚えて、そうしたらだんだんと認めてくれるようになった。喧嘩は大事だな、と。新参者で競争もあるなかで良くは思われていなかった。スペインは観客も審判もスタッフも街ごとサッカーの戦い。日本にはあまりない環境だったので、私も考え直した」

 サッカー用語に特化したスペイン語をノートに書き写して徹底的に丸暗記。チームメイトと対等に戦えるようタフさを身に付けた。自ら下した決断には責任を持ち、思考を巡らせ、解決法を見出す。山本が6シーズン半もスペインでプレーできた秘訣。行動力の源、好奇心の炎を絶やさなかったからこそ、世界で戦うことができた。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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