J2降格で「少しいびつに」 ミシャ式に苦悩も…岩政監督が直面した“バランス”の課題

札幌を率いる岩政大樹監督【写真:元川悦子】
札幌を率いる岩政大樹監督【写真:元川悦子】

岩政大樹監督がぶち当たった壁…ミシャ・マインドからの変化

 2024年まで8シーズン連続でJ1の地位を守り続けてきた北海道コンサドーレ札幌。しかしながら、昨季は19位に甘んじ、J2降格の憂き目に遭った。岩政大樹監督はチーム再建請負人として新天地に赴いたわけだが、鈴木武蔵、駒井善成(ともに横浜FC)、浅野雄也(名古屋)、菅大輝(広島)、岡村大八(町田)ら実績ある面々が移籍するなど、チーム編成にバラつきが生まれる中のマネージメントを強いられた。(取材・文=元川悦子/全7回の2回目)

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「2024年J1のコンサドーレは最後まで残留争いで粘ったので、結論が出るまで新シーズンに向けたチーム編成に本格的に乗り出すことができませんでした。しかも昨季は残留のために夏場に多くの補強を行った。保有人数がかなり多くなっていたので、新しい選手を獲得するのは容易ではなかったんです。そのうえで、複数の選手が年末に流出したので、ポジションバランスにバラつきがある状態が生まれてしまった。ベテランと若手のバランス、日本人と外国人のバランス含め、少しいびつになったのは確かです」

 岩政監督も神妙な面持ちで言う。ポジションに関して象徴的な事例の1つが、キャプテン・高嶺朋樹の起用法だろう。彼はもともと戦術眼に秀でたボランチとして頭角を表し、柏レイソルを経て、コルトレイクに赴いた。その逸材を今季札幌に呼び戻し、主軸に据えたわけだが、起用したのはボランチのみならず、左サイドバック(SB)、センターバックなど多彩な位置だった。

 中断前ラストの7月12日のジュビロ磐田戦などでは、左SBに入った彼のところを徹底攻略され、退場者が出たこともマイナスに作用し、1-5の大敗を喫している。前半戦の間に中村桐耶、パク・ミンギュが長期離脱。岡田大和は最近になって復帰してきたが、信頼できる左SBがいなかったため、そうせざるを得なかったのだろう。

「課題はポジションのことだけではなくて、昨季までミシャさん(ペトロヴィッチ監督)という偉大な存在がいて、そこからの切り替えをどうしていくかというテーマもありました。ミシャさんはオープンなスタイルを前面に押し出した指導者。その結果として『大量得点・大量失点』という試合も少なくなかった。そのサッカー・マインドを変えるのはなかなか難しいことでした」

 指揮官は札幌に根付いたカルチャーのいい部分を伸ばし、足りない部分を補うべく、トライ&エラーを繰り返した。

「『競争』も新チームのテーマの一つでした。全員を競争させ、全員の個性を引き出すためには、単に戦術やシステムに手を付けるだけでは足りない。昨季まで試合に出られなかった若手や外国人を組み込んでチームを活性化させることを考えて、僕はここまでやってきました」

半年経ち…変わり始めた雰囲気「今後に向けて期待が持てますね」

 そこで重要なのが、選手たちに自主性を養ってもらうこと。もちろん彼らはプロフェッショナルなのだから、自分からアクションを起こすことはできる。それをより一層、伸ばし、自ら判断を下せるような高度なマインドを持った集団へと変貌させることが、チーム立て直しの絶対条件だと岩政監督は考えた。

 そこは、「個人にフォーカスして、1人1人を伸ばしたい」と熱望する教育者的な彼らしいところ。取材日だった7月23日も、実戦形式の練習中に指揮官が指示を与えている以外のところで選手同士が密に話し合う姿がいくつも見られ、「自分たちでチームを良くしていくんだ」という前向きな機運が色濃く感じられたのだ。

「大きな枠は監督である僕が提示しますけど、選手たちがお互いの考えを伝えあって改善していくような集団にならなければ、本当に勝てるチームにはならない。僕はそう考えています。それも経験から来るところが大きいですね。選手時代も監督・コーチから指示されることはありましたけど、一番多くを学んだのは、自分の隣にいた選手たちの一挙手一投足です。横から要求もされましたし、自分から聞くことも多かったです。素晴らしい選手たちとプレーしながら意思疎通を図り、自分のやるべきことを整理し、『この場面ではこうやるんだ』と最適解を見出しながら、つかんでいった部分が多いんです」

 岩政監督は高みを目指し続けた選手時代の感覚に思いを馳せる。

「今は指導者として選手と向き合っていますけど、『この相手に対してはこうした方がいい』『この局面では間合いを詰めるべき』と僕がどれだけ言葉で伝えようとしても、彼らが100%感覚を捉えることはできない。横に並ぶ選手同士なら、それに近い共有を得られると思いますから、やっぱり選手同士で意見を言い合い、すり合わせできるのが、一番いいんです。コンサドーレに来て半年経って、僕が望んでいたチームの雰囲気になりつつあるのは確かだし、言い合う、伝え合うといったアクションがどんどん生まれている。ベテランも若手も関係なく話をしている姿を見ると今後に向けて期待が持てますね。

 サッカーって、戦術やシステム、相手の分析も大事ですけど、勝敗を左右するのはチームの文化や結束力、人間関係、組織の力。だから、自分たちでアクションの起こせる集団作りをより積極的に進めたいと思います」

 岩政流のマネジメントが奏功しつつある札幌。その真価が問われるのはここからだ。(第3回に続く)

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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