浅野拓磨の鮮烈弾…ファン衝撃のバイエルン撃破からなぜ激変? 転落するボーフムの苦悩【現地発コラム】

浅野拓磨が所属するボーフムは不調に陥り残留争いを展開【写真:Getty Images】
浅野拓磨が所属するボーフムは不調に陥り残留争いを展開【写真:Getty Images】

バイエルン撃破後は6試合で0勝1分5敗のボーフム、上位進出争いから残留争いへ

 日本代表FW浅野拓磨がプレーするドイツ1部ボーフムが苦しんでいる。

 2月頃には「今季はもう残留争いの心配はない」とさえ思われた時期もあった。2月18日に行われた第22節のバイエルン・ミュンヘン戦、ホームで3-2の勝利を挙げた時には、ドイツ中のサッカーファンが驚き、必死の戦いぶりで懸命に勝利をもぎ取ったボーフムに賛辞が次々と送られたものだ。

 ドイツ代表GKマヌエル・ノイアーが守るゴールをまたしても打ち破った浅野にも、称賛の声が集まった。見事なカウンターからファーポストへのシュートできれいにゴールを奪ったシーンは、ドイツでも何度も繰り返し視聴されている。ワールドカップ、親善試合で日本代表としてゴールを決めたことと合わせて、「ノイアーキラー」としての異名をさらに広めた試合でもあった。

 バイエルンから勝ち点3を獲ったボーフムは、第22節終了時での順位を11位とし、2部3位との入れ替え戦に回る16位につけるケルンとの勝ち点差を9まで広げていた。下位に沈むケルン、マインツ、ダルムシュタットの3クラブが、それぞれシーズン2~3勝しかしていなかったことからも、この勝ち点差をひっくり返されることはないだろうと多くのボーフムファンが思ったものだ。それこそ当時7位だったブレーメンとの勝ち点差がわずか4で、「バイエルンにさえ勝ったのだから」上位進出さえも考えられない位置ではなかった。

 だが、そこからリーグ6試合でボーフムが掴んだ勝ち点はわずかに1(0勝1分5敗)。それも下位に沈む前述3クラブとの直接対決3連戦もあっただけに、痛手は非常に大きい。

 第26節ではマインツに0-2で完敗を喫し、第27節は最下位ダルムシュタットとのホームゲームで2-0とリードしながら追い付かれて2-2ドロー。そして第28節では17位ケルン相手に先制点を奪い終盤まで凌ぎながら、後半アディショナルタイムの連続失点で1-2の逆転負け。気が付くと順位は15位へと転落し、16位マインツとの勝ち点差は3、17位ケルンとは4差にまで縮められている。

現在のボーフムが抱える問題とは?【写真:Getty Images】
現在のボーフムが抱える問題とは?【写真:Getty Images】

浅野が口にしていた課題「どうしても奪ったあと、ゴールまでの距離が遠くなる」

 ボーフムはこれ以上の転落を阻止するために、4月8日にトーマス・レッチュ監督とヤン・フィーサーコーチ両名を解任した。

 レッチュ監督は常にチームにハードワークを求め、マンマークで相手の良さを消しながら、長い距離を走ることをいとわず何度でも愚直にゴールへ直行するスタイルを志向していた。それが上手くハマった試合は強い。それこそバイエルンにも勝っている。だが、1つズレると修正が利かないのが何よりの難点でもあった。バイエルンとの翌節でボルシアMGとアウェーで対戦し、上手く噛み合わないまま2-5で完敗を喫している。

 失点が多いチームが守備固めを考え、カウンターに活路を見出すのはサッカー界における常套手段と言えるかもしれない。それでも偶発的な攻撃だけでは苦しい。バイエルン戦以降、ゴールとアシストがない浅野が、第23節ボルシアMG戦後にこんなことを口にしていたのを思い出す。

「チャンスは作れてますし、もっとチャンスになりそうな場面っていうのもたくさんある。そこはもう僕自身の課題でもありますし、もっとシュートで終わる形っていうのを増やしていきたいなと思います。ただどうしても奪ったあと、ゴールまでの距離が遠くなるので、シュートまで行くことはそんなに簡単ではない。ゴールにつながるか、つながらないか以前に、『シュートで終わる』『クロスで終わる』、そういう場面をもっとチームとしても増やしていきたいなと思います」

 ボールの奪い方と奪取後のアクション精度を向上させないと勝ち切れない。後任にはU-19からハイコ・ブッチャー氏がシーズン終了まで指揮を取ることが発表されている。戦い方を大きく変更するのは難しくても、プレー基準を整理し、少しでもバリエーションを増やしたいところだ。

 昨季も最終節の強豪レバークーゼン戦で、浅野の見事な1ゴール1アシストにより3-0で勝利し、劇的な地力残留を果たしたボーフム。ここからの6試合、吹っ切れたプレーで思い切りの良さを取り戻し、3季連続となる残留を果たすことができるだろうか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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