進撃のアーセナル冨安、“世界最高峰”への最適解は? 右SBに膨らむ期待ともったいなさ

アーセナルで活躍するDF冨安健洋【写真:Getty Images】
アーセナルで活躍するDF冨安健洋【写真:Getty Images】

まるでクモが網を張って獲物に襲いかかるような守備を見せるアーセナルの冨安

 イングランド1部アーセナルに所属する日本代表DF冨安健洋の進撃が止まらない。日本のサッカーファンなら誰しもが知っているとおり、彼の本職はセンターバック(CB)だ。しかしながら、世界レベルにおける認識は大きく変化しつつある。

 セリエAのボローニャでいわゆる変則型の右サイドバック(SB)として評価、経験を高めた冨安は昨夏1700万ポンド(約26億円)でプレミアリーグのアーセナルに移籍。第4節のノリッジ・シティ戦で衝撃的なデビューを果たすと、世界最高峰の1つとされるプレミアリーグでみるみる評価を高めている。

 まず注目されるのは1対1の強さだ。大前提として純粋な1対1の攻防で縦に突破されるどころか、後手を踏むようなシーンがほとんど見られない。世界の猛者が集うプレミアリーグでこの意味は非常に大きい。後半に退場者が出て1-2で敗れた新年のマンチェスター・シティ戦においても、対面するラヒーム・スターリングを同サイドで完璧に封じた。

 その1対1で強調したいのはその場で奪う、止めるケースがほとんどであることだ。SBは何より突破されないことが大事になる。冨安の場合、それは最低限としてボールを奪うチャレンジをしながら破られない。ほとんど後ろに下がらないで、距離を詰めて行手を阻んでくるので、相手のサイドアタッカーは行動を限定されて、前にボールを運ぶことすら難しくなっているのだ。

 そうしたディフェンスを可能にしているのは瞬発力、旋回能力を含めた高水準のスピードを備えることに加えて、局面を見極める観察眼と予測力だ。冨安のディフェンスを見ていると、まるでクモが網を張ったまま獲物に襲いかかるかのようだ。

 さらに注目したいのがパスカットなどを含めたカバーリング能力。周囲の味方がボールロストをしたり、不慮の突破をされた時のカバーリングも抜かりない。ミケル・アルテタ監督が新型コロナウイルスの陽性反応で欠場し、後半途中センターバックに退場者が出て10人になったマンチェスター・シティ戦でも獅子奮迅の働きを見せており、冨安がいなかったら大量失点につながっていたことは想像に難くない。

 そして最近になって上昇しているのが攻撃面での貢献だ。冨安はサイドのスペシャリストではないので、ライン側をガンガン上がっていくわけではない。それでも右サイドアタッカーのブカヨ・サカなどを後ろからサポートし、ビルドアップに参加しながら機を見極めてディフェンスの間にパスを通し、時には危険なスルーパスをアレクサンドル・ラカゼットやガブリエル・マルティネッリに通すことで、局面を打開するための起点を提供している。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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