ブッフバルトも認める22歳DF伊藤洋輝 ただ者ではない“どっしり感”、光るゲームオーガナイザーの資質

シュツットガルトでプレーするDF伊藤洋輝【写真:Getty Images】
シュツットガルトでプレーするDF伊藤洋輝【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】元独代表ブッフバルト氏も高評価「近い将来代表入りするチャンスがある」

 11月のブンデスリーガ最優秀新人賞に選ばれ、マインツ戦では見事なゴールなど勝利に貢献しキッカー誌選出のベスト11に選出されたドイツ1部シュツットガルトの22歳DF伊藤洋輝。ペジェグリーニ・マテラッツォ監督やスベン・ミスリンタートSDに称賛され、ファンからも愛されている。

 ドイツ紙「ビルト」のインタビューで元ドイツ代表CBギド・ブッフバルト氏が「パスの正確さとともに、特にいいのが彼の持つ落ち着きだね。ストレスがかかる状況でも丁寧なボールを蹴ることができる。それにやるべきことをしっかりやるところもいい。競り合いにおいて常に相手選手との距離を保っている。近い将来代表入りするチャンスがあると思っているよ」と称賛していたが、確かに伊藤が試合中に見せる落ち着きぶりは特筆すべきものがある。

 それこそある種のふてぶてしさのようなどっしり感。

 それを色濃く感じたのはリーグ4節のフランクフルト戦だ。後半25分から左ウイングバックの位置で途中出場した伊藤は、同30分に味方とのパス交換から上手くボールを運ぶなどいい形で試合に入っていたように思われた。

 ところが同37分、何でもないスローインの場面でボールを手に持った伊藤が、後方でサポートに来ていたCBウラジミール・アントンへセーフティに投げた、はずのボールが大ピンチの引き金となってしまった。

 走ってくる動きと少しずれたボールに対してアントンがバランスを崩し、いち早く反応したフランクフルトFWラファエル・ボッレがボールの元へ。アントンは思わずファールで阻止したが、1発レッドカードで退場処分となってしまった。

 この時点でフランクフルトが1点リードという試合展開。それが途中交代で入った自分が関わったプレーでチームが数的不利となったら、メンタル的に一気に不安定になってもおかしくはない。だが、伊藤はその後動揺しているような様子を微塵も感じさせず、気持ちをすぐに切り替えて、自分の役割をそつなくこなしてみせた。その“普通にプレーできている”姿から、ただ者ではない何かを強く感じさせられた。

 そしてサッカーではどんな時でも“普通にプレーできている”クオリティーを高く保てないと思わぬ痛手を受けることがある。14節ヘルタ戦でシュツットガルトは序盤早々に2点をリードしながら相手の反撃を許し、最終的に2-2の引き分けに終わっている。若手の多いチームにありがちな試合展開といえばそれまでだが、試合後にマテラッツォ監督が指摘していた点はとても重要ではないかと思われるのだ。

「流れを取り戻せなかったわけではないと思う。後半、いい時間帯もあった。ただ前半に関しては(流れを失った)2つの理由があると思う。負けたくないという不安ともう2点差だからという安心。それぞれがそのどちらかを感じすぎていたのかもしれない。これはチームとしての問題ではなく、それぞれの選手のそれだと思う。だから個々に話し合う。いずれにしても90分間限界までやらないと、ブンデスリーガでは勝てない」

 やっているつもりでは通用しない。自分でマインドコントロールして、足を止めることなく次のプレーに向けて準備をして、自分のパフォーマンスをしっかりと出せるように取り組まなければならないのだが、若手選手にはそのあたりが難しかったりする。その点、伊藤本人にもミスはあったが、少なくともすぐにそれを取り返そうと動き出していた。そうした選手がチームにいることは監督にとってとても重要なことだろう。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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