131年ぶりの“掟破り”…エバートン就任劇が起きた背景 実直な男の地元“リバプール愛”

エバートン監督に就任したラファエル・ベニテス氏【写真:Getty Images】
エバートン監督に就任したラファエル・ベニテス氏【写真:Getty Images】

【英国発ニュースの“深層”】元リバプール指揮官のベニテス、“宿敵”エバートン監督に就任

 6月30日、現地時間午後4時9分に「BBC」が流した第一報を見て、クラブと本人が合意と報道されてもどこか半信半疑でいた、ラファエル・ベニテスのエバートン監督就任が正式に決まったことを知った。

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 この招聘を一言で表現するなら「掟破り」だろう。元リバプール監督がエバートン監督に就任することなどありえない。感情的な人柄で知られるマージーサイドで強烈なライバル心を燃やし合う赤と青の2クラブ。ローカル・ダービーの闘魂と激しさはまさにイングランド随一。それに加えてベニテスの場合は、エバートンのサポーターにとって特に耐えられない人選だ。

 それは2007年2月3日にスペイン人知将が発したコメントに起因する。エバートンが徹底して守備を固めて0-0のスコアレスドローに持ち込んだ試合直後の会見だった。ベニテスは「本当にがっかりした。片方だけが勝利を目指し、もう片方は負けないことだけに徹した」と語ると、こうした戦略を選んだエバートンを「スモールクラブ」(小さなクラブ)と呼んで、勝ち点「1」で終わったフラストレーションを爆発させた。

 しかし、これは明らかな侮辱だった。エバートン創立はリバプールより古く、イングランド・フットボールリーグ創設12クラブの1つであり、117シーズンの1部リーグ在籍記録は史上最高だ。しかも優勝回数も9回で、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、アーセナルに次ぐ史上第4位のクラブ。歴史的にマージーサイドのブルーズを「スモール」と呼ぶことはできない。

 ベニテスは2011年に英高級紙「インデペンデント」の取材に応じ、エバートンを小さなクラブと呼んだのは「あの試合の戦い方に限ってのことだった」と言い訳はしている。けれども、それでも呼ばれたほうは決して忘れることができないというのが人情だ。それにスペイン人の一言はプレミアリーグ創設以来、1980年代にはリバプールとリーグ優勝を交互に分け合った強豪が中堅の地位に甘んじ、優勝争いに全く絡めなくなった近代エバートンの苦境をズバリと言い表している部分もあった。つまり、冗談では済まされないのである。

 普段、同じ街のリバプールサポーターに言われて腹に据えかねていることを、敵将が公然と言い放ったのだ。これはちょっとやそっとでは許せない。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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