川崎のJリーグ連覇への道は意外と険しい? 二つのカップ戦決勝に見えた微妙な明暗

ルヴァン杯優勝のFC東京と天皇杯優勝の川崎フロンターレ【写真:Getty Images & 高橋学】
ルヴァン杯優勝のFC東京と天皇杯優勝の川崎フロンターレ【写真:Getty Images & 高橋学】

【識者コラム】Jリーグの“絶対王者”川崎、天皇杯決勝ではG大阪の万全の守備対策に苦戦

 年明け早々に二つのカップファイナルを国立競技場で行い、日本サッカー界はコロナ禍に見舞われた2020年度シーズンの幕を閉じた。天皇杯は川崎フロンターレが順当勝ちして二冠を達成し、ルヴァンカップは離脱者続出で苦境のFC東京が3度目の優勝を果たしたわけだが、両チャンピオンの間には来季へ向けて微妙な明暗が見えた。

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 まず川崎のJ1リーグでの圧倒的な勝利は、今さら事挙げするまでもない。天皇杯決勝でも序盤からガンバ大阪を自陣に閉じ込め、圧倒的なポゼッションを見せつけた。直近のリーグ戦では0-5と大敗し目の前で川崎に優勝を決められたG大阪は、5バックで極端な守備戦術を貫き、それでもGK東口順昭は「リーグで最多得点を取っているチーム。メチャメチャ怖かったですよ」と振り返った。「耐えてカウンターしかない。それが今の実力」(東口)と語っている。

 ただし反面、どうしても二冠を手にしたい川崎の鬼木達監督も、早くも準決勝の秋田戦からノックアウト方式仕様の真剣モードに入った。最終ラインこそ登里享平が故障した左サイドバックに急遽、旗手怜央を抜擢したが、それ以外は決勝まで2戦連続して最初から現状のベストメンバーを選択。ところがそれが逆に苦戦を招いた可能性もある。

 3トップに家長昭博、レアンドロ・ダミアン、三笘薫と並べ、アンカーの守田英正の前に大島僚太と田中碧を配すラインナップは、おそらく川崎のバリエーションの中でも最も決定力が高い。もっともリーグ戦での川崎は、こうした切り札を後半から使うことで違いを生み出してきた。

 ところが予想通りのスタメンを送り出したことで、G大阪も万全の守備対策を用意。とりわけ守備網を切り裂くドリブルを持つ三笘に対しては、時にはシャドー役の倉田秋までもが戻って3人で対応するシーンが見られるほどの警戒ぶりだった。それでも川崎は三笘のゴールで先制するのだが、以後1点差の膠着状態を打開できずに、終盤はパワープレーを仕掛けるG大阪の猛攻にあい、この試合で現役引退となる中村憲剛を出す余裕を失うほど冷や汗をかくことになった。

 一方、ルヴァンカップを制したFC東京は、大黒柱のディエゴ・オリヴェイラを筆頭に、中村拓海、林彰洋、アルトゥール・シルバ、髙萩洋次郎らのレギュラークラスを軒並み故障で欠き、満身創痍で決勝戦を迎えた。しかも直近の柏との対戦では、オルンガへの対応に集中した結果、クリスティアーノに決定的な仕事をされていた。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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