元日本代表DFが始めたサラリーマン生活 電車通勤1時間超…工場で触れる“モノづくり”の奥深さ

パソコンにも慣れ、自ら作成したグラフを披露する笑顔が弾ける【写真:河野 正】
パソコンにも慣れ、自ら作成したグラフを披露する笑顔が弾ける【写真:河野 正】

【元Jリーガーを直撃】永田充(元浦和ほか):今年2月に現役引退、「文化シヤッター」に入社し第2の人生を歩み出す

 かつてJリーグの柏レイソルやアルビレックス新潟、浦和レッズでプレーした元日本代表DF永田充は、今年2月に現役引退を発表した。J1通算272試合の実績を誇り、16年限りで浦和を退団後はJ2の東京ヴェルディ、関東リーグ1部の東京ユナイテッドFCでのプレーを経てスパイクを脱ぐことになったが、日本代表にまで上り詰めた37歳のセンターバックは今、意外なセカンドキャリアを歩み始めている。

 製造業コンサルティング会社を営む父・公雄さんのアドバイスを受け、工場での経験を積むために東京ユナイテッドのユニフォームスポンサーである大手総合建材メーカー「文化シヤッター」に入社。現在は栃木県小山市の小山工場で勤務している。

 現役引退からわずか数カ月で始まった、プロサッカー選手とはまったく異なる日々を追った。

(取材・文=河野正)

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 起床は午前6時。さいたま市内の自宅から最寄り駅を経由し、大宮駅でJR宇都宮線快速に乗り継いでおよそ40分、小山駅に到着する。バスで工場に向かい通勤時間は合計1時間超、作業服に着替えて日課のラジオ体操が終わると、8時30分の始業時間だ。昼休みを挟んで午後5時15分まで働き、7時過ぎに帰宅。寝床には11時に入る。

 これが今春、大手総合建材メーカーの文化シヤッターに正社員として入社した、元日本代表DF永田充のルーティンだ。「行きは下りで帰りは上り、電車が混んでいないから助かります」と笑う。

 栃木県小山市の小山工場業務課に配属され、3月25日に初出社。ところが新型コロナウイルス感染拡大により政府は4月16日、緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大した。栃木県は5月14日に解除されたが、首都圏が同24日まで継続されたため、週2日の勤務が1カ月半続き、通常シフトに戻ったのが6月1日だった。

 この自宅待機期間中、蓮見幸夫工場長は読書感想文の宿題を課した。京セラとKDDIの創業者、稲盛和夫氏が生きる意義や人生哲学について記したベストセラー『生き方』のほか、オーストリア人経営学者ピーター・ドラッカーの『エッセンシャル版マネジメント』など4冊を読了。永田は「3000文字くらいの感想文を2つ書きました。興味深い著書ばかりだったので、書くのは全然苦にならなかった」と事もなげに言った。物を書くことや読書とはまるで無縁と思われたが……。

 舌を巻く蓮見工場長。「書き慣れたレポートがたくさん出されたので、これはできる男かもしれないと思いました」。いろんなものに興味を抱き、チャレンジしてもらいたいというのが工場長の狙いだ。

 小山工場の敷地面積は8万1189平方メートルで、東京ドームのグラウンド面積1万3000平方メートルの6倍以上もある。ここで重量・軽量シャッターやシートシャッターをはじめ、物流倉庫や消防署などに使用するオーバースライディングドア、スチールドアなどを生産している。協力会社の従業員を含め約300人が従事。通常勤務になってから永田は、工場の各部署を一定期間くまなく巡回して経験を積み、製造のイロハを学ぶ毎日だ。

河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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