「なんて凄い人たちなんだ!」 世界一決定戦のベンチで日本人が目撃、南米名将の懐の深さ

アルゼンチン生まれの名将カルロス・ビアンチ(写真左)【写真:Getty Images】
アルゼンチン生まれの名将カルロス・ビアンチ(写真左)【写真:Getty Images】

指導者には「自分が傷ついても選手を育てていく気概」が必要

「スタッフとしてボカの指導を見て来たり、こうして世界一になる瞬間を見届けることができたりしたのは、僕の強みだと思っています。指導者が最優先するのはチームを勝たせること。でもビアンチは世界一を決める試合の最中でも、近未来に化ける可能性を秘めた選手を育てていく構想が頭に入っていたんです」

 ビアンチは、リケルメ、パレルモ、チラベルト(パラグアイの名GK)など個性の強い選手たちから、いつも慕われていた。彼の全体を見る懐の深さやマネージメントに、亘は深い感銘を覚えた。

 そして亘は大ヒットアニメの「ONE PIECE」の世界を引っ張り出して、指導者のあるべき姿を力説した。

「アニメの中でシャンクスという登場人物は、自分が見込んだ主人公のルフィを守ろうとして海獣に腕を食べられてしまいます。監督が自分の信じた道を進もうと思えば、クラブの役員やスタッフから横やりが入ることもある。しかし、もしそれで自分が傷ついたとしても『大丈夫、おまえはいつか世界を変えられるかもしれない』って選手に言ってあげられる強さと優しさ、それにビジョン。指導者にはシャンクスのように、自分が傷ついても選手を育てていく気概、それが求められているんだと思います」

 かつて現役時代にボカとプロ契約を結んだ亘は、様々な指導経験を経て現在は「プレナスチャレンジリーグ」(女子3部)の岡山湯郷Belleで監督を務めている。過去3年間でオーストラリア、ブラジル、韓国に計7人の選手を送り出し、東京ヴェルディ時代には藤本寛也(ジル・ヴィセンテ/ポルトガル)、三竿健斗(鹿島アントラーズ)、神谷優太(柏レイソル)、渡辺皓太(横浜F・マリノス)、大久保智明(中央大学→浦和レッズ内定)らの指導に携わった。その独特の指導法、あるいは哲学を聞くために、遠路神奈川県や大阪府などからも足を運ぶ指導者が後を絶たない。

「サッカーでメシを食っていける選手を1人でも多く育てたい」

 そんな亘ワールドを、6回にわたって紹介していく(文中敬称略)。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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