人気女子サッカー漫画『さよなら私のクラマー』 作品名に込められた「敬意と愛」

蕨青南高校の深津吾朗監督(第3話より)【画像:©新川直司/講談社】
蕨青南高校の深津吾朗監督(第3話より)【画像:©新川直司/講談社】

【作者・新川直司インタビュー|前編】澤穂希のドキュメンタリー番組が女子サッカーを意識したきっかけに

 月刊少年マガジン(講談社)で連載中の『さよなら私のクラマー』。高校の女子サッカー部を舞台にした物語で、周囲から「ワラビーズ」と揶揄される“弱小チーム”の埼玉県立蕨(わらび)青南高校に集まった少女たちの成長が描かれる。

 女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の初代チェアとなった岡島喜久子氏が、就任記者会見で「月刊少年マガジンに『さよなら私のクラマー』という漫画があるんですが、読者の方に会場に来てもらいたいと思っています」とコメントするなど、今注目を集めている。

 作者はテレビアニメや実写映画化もされた『四月は君の嘘』(月刊少年マガジン/講談社)で、2013年の講談社漫画賞少年部門を受賞した新川直司先生。サッカーファンだけではなく幅広い層から支持を受ける人気作品のその背景に迫る。

 前編では、連載が始まったきっかけから、新川先生が作品タイトルに込めた思いについてお届けする。

※最新のコミックス12巻までの内容に触れる部分がありますので、あらかじめご了承下さい。

  ◇   ◇   ◇

――まず初めに『さよなら私のクラマー』が始まった経緯を教えて下さい。新川先生は以前にも『さよならフットボール』(マガジンイーノ/講談社)という女子サッカーをテーマにした作品を発表されていますよね。

「学生の頃に澤穂希さんのドキュメンタリー番組を見たんです。ちょうど澤さんがアメリカに移籍した時のものだったと思いますが、それが女子サッカーのことを強く意識するきっかけになりました。あの頃は盛んに『女子サッカーが終わってしまう』というようなことが言われていたんです。それが強烈に印象に残っていました。

 ただ、男子ではなく女子サッカーを描こうと思ったのは、僕が男の子を描くとどこか弱々しい主人公になってしまうということがあったからです。僕が前向きな男の子のキャラを描くのが変な感じがして、だったら元気な女の子を描こうとなりました。そうすると自分の中で違和感なく描けるようになったんです」

――以前、『四月は君の嘘』に関するインタビューで新川先生が「男の子を描くと、どうしても暗くなっちゃう」と話しているのを読んだことがあります。そういった背景があったんですね。

「そうなんです。『さよならフットボール』を描いた時も、単純にサッカーが好きなのと、元気な女の子を描きたいという思いがあって、それなら女子サッカーだろうと決まりました」

――前作『さよならフットボール』が連載されていたのが2009年から10年にかけてのことでした。それから11年のドイツ女子ワールドカップ(W杯)を境に、女子サッカーを取り巻く環境は一気に変わりました。

「変わりましたね。あれは困りました(笑)。ちょうど次の作品を描こうかなと構想している時に、日本が女子W杯で優勝。世界で勝つことに向かっていく話を考えていたんですけど、現実にもう勝ってしまったんです」

――現実がフィクションの世界を越えてしまった。まるで将棋界で次々と記録を打ち立てる藤井聡太棋聖のようですね。

「それでも、女子サッカーではW杯よりオリンピックのほうが重大な大会らしいということは聞いていたので、新しい作品を描くのも問題ないだろうとなりました。あとはやっぱり日本サッカー全体が強くなってほしい、そのために競技人口が増えてほしいという思いもありました。

 男子サッカー漫画は『GIANT KILLING』(モーニング/講談社)があるので、男子はそっちにお任せしようと(笑)。『さよならフットボール』を描いていたので、女子サッカーなら僕が描いても違和感はありませんでした。なので『さよなら私のクラマー』を描くことになったんです」

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