「監督の作戦」を選手が変更し“撤退” レアルがクラシコで見せた決断力と日本代表の課題

レアル・マドリードがクラシコを2-0で完封勝利【写真:Getty Images】
レアル・マドリードがクラシコを2-0で完封勝利【写真:Getty Images】

【識者コラム】劣勢の前半に選手がハイプレスを断念 「正しいかどうかは分からないが…」

 リーガ・エスパニョーラ第26節の“エル・クラシコ”、レアル・マドリードがバルセロナに2-0で勝利した。前半はバルセロナ、後半はレアルが攻勢だった。

「前半はバルセロナにボールをあげることにした。正しいかどうかは分からないが、そうすることに決めた」(レアルDFセルヒオ・ラモス)

 ジネディーヌ・ジダン監督の策はハイプレスだったようだ。バルサのビルドアップを敵陣で阻止する、攻撃力を元から断つという作戦である。バルサに確実に勝とうと思ったら、これが一番効く。ボールを保持できなければ、バルサは決してスーパーなチームではないからだ。実際、この試合の後半はそうだった。

 一方、バルサのポゼッションを阻止するのは至難の業でもある。ボールを持たせなければいいというのは分かりきった結論なのだが、それを実行するのはほぼ不可能なのだ。レアルも、前半はバルサのパスワークを制御できていなかった。

 GKからでもパスをつないでいくポゼッションに対してのハイプレスは、諸刃の剣でもある。ハイプレスでビルドアップを破壊できればいいが、プレスを外されてしまうと自動的に相手のカウンターアタックを食らってしまうからだ。だからハイプレスがはまらなかった前半のレアルは、危険な状態になりかかっていた。そこでラモスが話しているように、レアルは引くことにしたわけだ。ハイプレスが機能していないと判断し、いったん撤退することにした。

 この決断ができるのは、さすがだと思う。監督の決めた作戦を試合中に選手の判断で変えるというのは、そう簡単なことではない。素早く次善の策を講じる、それをチームメートが即時に理解して共有する、というのはそう簡単ではないはずだ。

 しかし、それをすんなりとやれてしまうところにレベルの高さを感じた。ただ、それよりも作戦変更は「正しいかどうか分からない」のだ。正解が分かっていれば誰でもやれる。正解が分かっていないのに作戦を変更する決断をするところが、さすがである。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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