【サッカー分析講座➄】“コンパクト”なサッカーが意味するもの その裏に隠された「1・5秒」のせめぎ合い

 現代サッカーでは、ボールを持っている選手のスキルが非常に高いため、ボール保持者に自由にプレーさせないことが重要視されている。そのためにプレーを制限するために時間とスペースを与えないことを守備の約束事にしている。具体的には、ファーストディフェンダー(ボールに最も近い守備者)が素早いアプローチをかけることで、ボールを持った選手が簡単に前を向いたり、効果的な攻撃のための良いプレーを選択をすること、スピードに乗せることを制限する等の約束だ。

 またファーストディフェンダーがはずされてしまった場合でも次の選手が自分のマークを視野に入れながらもしっかりカバーできる距離にいることも大事だ。そのようにボールに近い守備者から次に近い守備者、その次に近い守備者……と順番にポジションを取っていくと、自然に各選手間の距離は近くなる。その適切かつ効果的な守備の陣形をコンパクトと表現している。

 実際の試合中継では、守備者が密集している状況をコンパクトと表現することが多い。しかし指導の現場では最終ラインと最前線の距離、両サイド同士の距離を厳密に決めて指導している。どの位の距離感を保つこと、つまり前から後ろの選手の距離が何mで両サイドの選手の距離が何mだったらコンパクトなのだろうか?

 よく言われているコンパクトの目安は、前後は30m~35m、左右は40m~45mだ。この大きさは、ピッチを縦に3分割した各エリアの長さ35mとペナルティエリア幅の40mというイメージだ。

 欧州のチームではその距離感の感覚をつかむために選手が腰ひもを付けて距離感を養っている。その腰ひもの距離は約15mだ。腰ひもを付けた状態で左サイドの選手が左によれば全体的に左に寄り、その選手がその状態で前に上がれば、残りの3人のディフェンスの選手は伸びないひもに引っ張られてさらに左に移動せざるを得ない。中央のディフェンダーのうち一人が前に出れば、残り3枚が自然に真中に引っ張られる。いわゆる中央に絞るという状態だ。

 伸び縮みしない腰ひもで選手同士が繋がっていれば常に約15mの距離は保たれるという単純な練習だ。仮に各選手が15mの腰ひもを付けた場合、トップの選手と最終ラインの選手の縦の距離は中盤の選手経由で30m、4人が横に並んだ時の長さを見ると45mとなり、チーム陣形がコンパクトと言われる大きさに収まることが分かる。ヨーロッパではポジショニングを大事にするので一見原始的なツールを使って効果的にトレーニングしているのだろう。

 

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