五輪の疲労、インフルエンザ発症… それでも90分間ピッチに立ち続けた小柄な川崎“10番”の現在地

大島復帰の川崎が2-1で浦和を撃破 天王山制し首位奪還

 埼玉スタジアムで試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、主将の中村憲剛は持っていたボールを高く蹴り上げ雄叫びを上げ、大久保嘉人は渾身のガッツポーズで歓喜を示した。一方で小柄な背番号「10」は、小さくポンポンと二度拍手をするに留まった。

「きつかったです…」

 試合直後、大島僚太から開口一番に出た言葉だった。咳が止まらないなかで取材の受け答えをし続けた。リオデジャネイロ五輪からの帰国後、疲労からかインフルエンザを発症。この日も欠場が予想されていたが、急きょ強行出場が決まった。そんな彼にとってピッチで90分間走り続けたことが、どれだけ苦しいものだったのかを察するのは難しくなかった。

 しかし、ナンバー「10」はそれでもきちんと期待に応えてみせた。後半28分、ピッチ中央でボールを受けると、目の前の相手選手をワンステップでかわし敵陣に侵入。即座に相手DF2人に詰められるも粘り勝ち、ボールをキープ。前線にパスし、再び戻ってきたボールをボックス右のスペースに出すと、それを受けたDFエウシーニョがダイレクトでクロスを入れ、MF森谷健太郎がスライディングで流し込み、値千金の決勝弾を生み出した。

「今日お前でいくと監督から聞いて。出るからには、コンディションを言い訳にはしない」

 大島は先発出場に対し、プロとして淡々と答えた。対する風間八宏監督は、「僚太は体調不良のなかで、90分通してハードワークしてくれた。普通なら、起用した監督は鬼だと非難されるところ」と自らの決断が厳しいオーダーであったことを認めている。

 一方で、主将の中村は大島の起用について「うちの心臓だし、少しでも出られるなら出てくれないとね。あの厳しいコンディションのなかで90分間使われることこそが、風間監督からの評価なんだから」と、監督自身が認めた“鬼采配”に理解と賛同を寄せた。

 浦和レッズは五輪組の興梠慎三と遠藤航をベンチスタートさせた一方で、大島は体調不良のなか、先発フル出場を果たしていることこそが、今や川崎の中心選手であることを証明した試合だった。

 

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