「牽引車の轍~クラブリーダーのバイオグラフィー~」vol.5 川森敬史(アビスパ福岡・代表取締役社長) 人生で学んだ気くばりの本質

 

クラブは今、どこに向かい、何を目指しているのか。

先導者たる社長やGMを知れば、自ずと未来は見えてくる。

リーダー自身の“来し方行く末”を聞く連載の第5回。

このクラブを牽引するリーダーには、自分ではなく地元で育った人間がふさわしい。

だが日増しに強くなる愛着は、もはや隠し切れなくなっていた。

今回は、アビスパ福岡をJ1に導いた、異色の経歴を持つ男の登場だ。

 

子どものころから周りと異なる環境で過ごした

「謙のみそれを成す――」

 私が大切にしているこの言葉は、アパマンショップの創業者であり、私の上司でもある大村浩次の言葉です。物事を成し遂げるためにはいろんな方法があるけれど、結局は純粋な目で捉え、謙虚に当たっていくことが唯一の近道だという意味です。いま私は、縁あってプロサッカークラブの社長という任に就いていますが、これまではサッカーとは無縁の人生を送ってきました。幼少期は野球が大好きでしたが、小学6年まで風呂無しアパート暮らしという貧しい生活でしたからクラブチームにも入れず、空き地の壁に円を描いて一人でピッチャーのまね事をしていたのを覚えています。

 工業高校を出て初めて就いた仕事は、父が経営する工務店の手伝い、しかも飛び込み営業でした。父親も含め、親類には経営者が多かったんです。母方の祖父も、公園の遊具や学校の体育機器をつくる会社を経営していて、祖父の家に遊びに行くと、叔父が「敬史、ゴメン。これからお客さんに納品に行かなきゃいけないから遊べないんだ」などと言われたり。普通のサラリーマン家庭とは少し異なる環境で、「仕事って何だろう」「お客さまって何だろう」ということを、知らず知らずのうちに考える癖がついたのかもしれません。  そういえば私が高校のころ、NHKの鈴木健二アナウンサーの著書、『気くばりのすすめ』という本を購入して読んでいた記憶があります。その本を見つけた叔父に「敬史、若いうちから“気くばり”なんて考えなくていい。まず強くなってからだ!」と怒られたのを思い出します。

 

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