「牽引車の轍~クラブリーダーのバイオグラフィー~」vol.3 羽生英之(東京ヴェルディ・代表取締役社長) 誇るべきファミリーのために

クラブは今、どこに向かい、何を目指しているのか。

先導者たる社長やGMを知れば、自ずと未来は見えてくる。

リーダー自身の“来し方行く末”を聞く連載の第3回。

もともとサッカーと深い縁があったわけではなかった。

だが、いつしかその男の胸にはいま、誰よりも深い愛情と強い義務感が生まれた。

今回は、異色の経歴を持つ、緑の救世主の登場だ。

 

始まりは「たまたま」だった

 2010年6月、Jリーグの事務局長だった私は、兼任で東京ヴェルディの社長になりました。その経緯を正直に言うと「たまたま」だったんです。Jリーグのトップにチェアマンがいて、次に専務理事がいる。専務理事はチェマンに何かあった時のための補佐のため専任でなければならず、当初はその次の立場である常務理事がヴェルディの社長になるはずでした。しかし常務理事は、ヴェルディの株を持つことになったJリーグエンタープライズの社長も兼任していたため、利益相反行為となってしまうのでNGに。それで、4番目の私に話が来たわけです。

 当時、このクラブの経営状態は本当にひどい状態でした。でも私としては、早く次を引き継いでくれる立派な後任者を探し、すぐにJリーグに戻るつもりだった。やり残していた仕事がたくさんありましたからね。ただプライドもあったから、「絶対に10月までに債務超過を解消させる」とたんかを切ったのですが…。そんなに甘いものじゃなかった。期限が近づいて、背に腹は代えられず、最後は知人・友人に頼み込んで、正味1カ月で何とか3億8千万円を集めました。手を差し伸べてくれた人たちは、口をそろえてこう言ってくれたんです。「お前が社長をやるから助けてやるんだ」とね。うれしい思いと同時に、「これは簡単にJリーグに戻るわけにはいかないな」と。そしてご存じのとおり、Jリーグを退き、専任で今の仕事をする決断をしたんです。

 

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