「代表優先」はもう古い 久保建英のコパ・アメリカ招集案で問われる協会とJの姿勢

FC東京ではリーグ戦全試合に出場しており、不可欠な存在になっている久保建英【写真:Getty Images】
FC東京ではリーグ戦全試合に出場しており、不可欠な存在になっている久保建英【写真:Getty Images】

FC東京では不可欠な存在 もし欧州クラブならU-20W杯出場にも難色を示すはず

 久保建英(FC東京)の“フル代表デビュー問題”が、話題となっている。報道によれば、森保一監督が今年6月のコパ・アメリカ(南米選手権)での選出の可能性を問われ「結果も出している。それだけのプレーを見せている選手には、次のステップへの扉が自然と開く」と語ったそうだから、ここだけ切り取れば相当に前向きな姿勢を示したことになる。慎重居士の同監督としては、ずいぶん思い切ったリップサービスをしたものだと思う。

 コパ・アメリカは、当然欧州のシーズンオフに開催される。だから南米各国代表の有力選手たちは、概ね出場が可能だ。だが招待国の日本は、年始にアジアカップに出場したので、原則的に同じ選手たちを2つ目の大陸選手権に連れていく権利がない。一方でJリーグもシーズン真っ盛りなので、アジアカップに不参加の欧州組と東京五輪世代でメンバーを構成するという案が浮上したと言われている。

 確かにそれが事実なら、久保は真っ先に招集される実力を示している。東京五輪世代に経験を積ませるという狙いの裏には、まだこの年齢層ならJ1クラブでの主力に定着していないという想定があったのだろうが、久保はまったく違う。FC東京ではすでに開幕から不可欠な存在として、重要な役割を果たしている。

 もし欧州のクラブなら、5月にポーランドで開幕するU-20ワールドカップ(W杯)への出場にも間違いなく難色を示したはずで、実際2年前のU-17W杯に出場したジェイドン・サンチョ(イングランド)は、所属するドルトムントの戦力となっていたため、グループリーグを終えると日本とのノックアウトステージ初戦を前にクラブへ戻っている。

 もし、久保がU-20W杯に続きコパ・アメリカにも出場することになれば、最大で5月下旬から7月上旬までチームを離れることになり、この間にFC東京はリーグ戦6試合を消化する。せっかく序盤で首位に立ったチームが久保の不在中に失速すれば、JFA(日本サッカー協会)の意向がリーグの行方を大きく左右することになる。

 1993年のJリーグ創設が、「日本代表強化のため」だったのは事実だ。歴史的にも、1978年W杯で地元開催のアルゼンチンが初優勝した時は、国内リーグ戦を犠牲にして強化合宿を重ねた。55年前の東京五輪前も、日本代表選手たちは長期遠征や合宿を繰り返した。だが、もはやそれが容認されるような時代は、過去に遠のいている。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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